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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)11108号 判決

原告

佐藤純二

代理人

青柳盛雄

外八名

被告

東京都

代理人

吉原歓吉

外二名

主文

一  被告は原告に対し、金一〇万円およびこれに対する昭和四四年一〇月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一五万円およびこれに対する昭和四四年一〇月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、豊島区役所に勤務し、東京都職員労働組合豊島支部の執行委員をしているものであるが、昭和四四年五月一七日午後一時三〇分頃から、国鉄池袋駅西口構内の中央地下道入口附近において(別紙図面参照)、通行人に対し、いわゆる白鳥事件(昭和二七年一月二一日に札幌市内で発生した同市警察本部警備課長白鳥一雄警部射殺事件等につき、村上国治らがその犯人として起訴され、昭和三八年一〇月一七日最高裁判所の判決により、右村上らの有罪が確定した事件)の再審と村上国治の即時釈放を訴える署名および資金カンパ活動をしていた。

2  ところが、同日午後二時三〇分頃警視庁池袋警察署の警察官(以下同署員ともいう)が原告のもとに駆けつけ、何の理由も告げず、無理矢理同人をパトロールカー(以下パトカーという)に押し込み、池袋警察署まで連行したうえ、原告に対し、露骨な悪罵を加えながら同日午後三時三〇分頃まで不法にその身柄を拘束した。

3  以上の次第で、原告は、憲法で保障されている署名活動の自由を妨げられ、理不尽な身柄拘束を受けたのみならず、強制連行される際に受けた暴行により、頸、肩および胸部に全治五日間の加療を要する打撲擦過傷を負い、さらに、着用の背広を引き裂かれるなどして、多大の肉体的、精神的損害を蒙つた。

これに対する慰藉料は金一五万円が相当であるところ、右損害は、被告の公権力の行使に当る公務員である同署員らの故意または過失による職務上の違法行為に基因するものであるから(なお、池袋警察署は、本件以前において、都職労豊島支部に対する度重なる情報収集スパイ活動をしており、このことは、本件において、同署員の故意の存在を裏付けるものである。)、被告は、国家賠償法一条一項に基づき、原告に対し右損害の賠償責件がある。

4  よつて、原告は被告に対し、損害金一五万円およびこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四四年一〇月二二日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁および主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、原告主張の頃池袋警察署員が強制的に原告をパトカーに乗せて池袋警察署まで連行したのは事実であるが、同署員が原告に連行を求める理由を告げなかつたとの点および原告主張のような悪罵を加えながら同人の身柄を不法に拘束したとの点はいずれも否認する。

3  同3の事実中、同署員らが被告の公権力の行使に当る公務員であることは認めるが、その余の事実は争う。

4  (被告の主張)

池袋警察署員が原告を連行したのは、以下述べるとおり、適法かつ相当な職務行為というべきであるから、原告の本訴請求は理由がない。すなわち、同署警ら係巡査長春山清治は、通行人の通報により、原告が訴外大和田大造と口論している現場に臨んだところ、大和田が口唇から血を流し、右傷害は原告に小突かれたためである旨述べ、原告を指し示したので、ここに同人を大和田傷害の準現行犯人であると認め(刑事訴訟法二一二条二項一号、三号参照)、一旦は同署への任意同行を求めたのであるが、原告がこれを強く拒んだため、改めて、傷害の現行犯として逮捕する旨を告げたうえ、同人を逮捕し、同署まで連行したものである。しかして、警察官が現行犯人の逮捕に当つて抵抗を受けたときは、それを排除するのに必要な程度で実力を行使することもまたやむを得ないことであるから、仮りに原告がその主張のような損害を蒙つたとしても、右損害は原告自らにおいてこれを受忍すべきものである。

三  被告の主張(二の4)に対する答弁

被告主張の事実中、原告と大和田とが口論している現場に池袋警察署員がきたこと、原告が同署に連行されたことは認めるが、大和田が被告主張のような傷害を負い、原告をその犯人として指示したとの点および同署員が原告に現行犯逮捕する旨告げたとの点はいずれも否認し、同署員の行為が適法かつ相当な職務行為であつて、原告は自らその損害を受忍すべきであるとの主張は争う。被告主張の準現行犯逮捕は、刑事訴訟法二一二条二項所定の要件を欠く違法不当なものである。すなわち、請求原因1記載のとおり、原告が署名活動をしていたところ、たまたま通りかかつた大和田がいきなり原告の署名画板の下に吊りさげてあつたポスターを破り取つてその署名活動を妨害したことに端を発し、原告と大和田の間に口論があつたことは事実であるが、原告が大和田に暴行を加えたことは全くなくその場の状況からしても、大和田が負傷したような事跡はなかつたのであるから、春山巡査長らは、大和田の妨害行為を注意し、その場でトラブルを収拾すれば事足りたのである。しかるに右巡査長らは、原告から何らの弁明も聞かず、一方的に同人を傷害の準現行犯人と断定し、右のような違法不当な逮捕に及んだのである。このことは原告が同署に連行されてから後、傷害もしくは暴行の点については何らの取調もなさず、数分後には釈放された事実に徴しても明らかである(ちなみに、右傷害の被害者とされた大和田については長時間にわたつて取調を行なつている)。

第三  証拠関係〈略〉

理由

一本件紛争の経過

(一)  原告は、豊島区役所に勤務し、東京都職員労働組合(以下都職労という)豊島支部の執行委員をしているものであるが、昭和四四年五月一七日午後一時三〇分頃から、国鉄池袋駅西口構内の中央地下道入口附近において、通行人に対し、いわゆる白鳥事件(この内容は請求原因の1で摘示のとおり)の再審と村上国治の即時釈放を訴える署名および資金カンパの活動をしていたこと、ところが同日午後二時三〇分頃警視庁池袋警察署の警察官が原告のもとに駆けつけ、無理矢理同人をパトカーに押し込み、池袋警察署まで連行したこと、以上の各事実は当事者間に争いがない。

(二)  しかして、右当事者間に争いがない事実と〈証拠〉ならびに弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(1)  原告は、同じく都職労豊島支部の組合員である訴外佐藤君枝(原告の妻)、同坂本秀夫、同松沢春美とともに、同日午後一時頃から約一時間の予定で国鉄池袋駅西口構内における右の署名活動等に参加し、原告が別紙図面の①の地点において、佐藤君枝、松沢、坂本がそれぞれ同図面の(イ)、(ロ)、(ハ)の地点に立つて、いずれも署名用紙をのせた署名画板を首から吊し、「無実の村上国治を即時釈放せよ」「白鳥事件裁判をやり直せ」等と手書きしたポスターを右画板の下部に垂らし、さらに原告だけ特にハンドマイクを持つて、交々通行人に対して署名と資金カンパを求めていた。

(2)  ところが、予定時間もすぎたので原告らがそろそろ右の活動を終えようと考えていた同日午後二時三〇分頃、たまたま駅前広場から構内へ向けて通行中の訴外大和田大造が、前記①の地点附近にさしかかつていきなり原告の前記ポスターを破り取り、「こんな駅の構内で署名活動をやるのはけしからん」「許可を得ているのか」「やりたければ外でやれ」「白鳥事件は死刑だ」等と言つて原告に文句をつけた。これに対し原告は、「なぜポスターを破つたのか」「ここで署名をやつてなぜ悪い」「憲法で保障されている署名活動だから許可の必要はない」「あやまれ」等応酬して大和田の行為に抗議した。右のような両者の口論は、時として興奮のあまりお互いにつかみかからんばかりの状態にもなつた。このような状況を見て集つた二〇名前後の通行人の中には、大和田に対し、「ポスターを破つたのは悪いではないか」「じやまをしないで帰れ」等と、非難したり、大和田の腹をけり上げ、或いは胸をつかんでひつぱつたりする者もあつたが、これによつて大和田自身が負傷したような形跡はなく、また、同人が原告に対しさきにポスターを破つたことを率直に謝罪したことなどもあつて、その場の不穏な状況は一応おさまつた。

(3)  ところで、おりから国鉄池袋駅西口前広場の「希望の像」附近で交通取締に当つていた池袋警察署交通係巡査芝田好雄は、前記①の地点の人だかりを目撃して右現場に急行し、原告と大和田からそれぞれ事情を聴取した。その際大和田は、原告のポスターを自ら破いたことを認め、前記のように、右トラブルの間に自分を取りまいていた者から腹をけられたり、胸をつかまえられたりした旨述べた。しかるに芝田巡査は、その場の状況から、大和田の右説明にもかかわらず、右暴行を加えたものは原告であると判断し、この暴行の点と前記ポスター破棄の点の事情をさらに詳しく聞くため、両名に対し、池袋駅西口巡査派出所へ任意同行を求めた。しかし、原告がこれを拒否したため、同巡査は、警察官の応援派遣を求めるべく、一たんその場を離れて東武デパート一階売場まで行き、そこの女店員に本署への連絡方を依頼した。一方原告は、大和田とのトラブルも前記のように同人の謝罪で一応落着したので、署名活動を打切り、別紙図面の②の地点に置いてあつた傘等の荷物を取つて傍にきた佐藤君枝に渡し、次いで同図面の③の地点方向へ帰りかけた。

(4)  これより少し前、前記芝田巡査の要請とは別個に、同署警ら巡査長春山清治は、同署警ら巡査田中実とともに池袋駅中央地下道を警ら中、通行人から池袋駅西口構内に大勢の人だかりがある旨の通報を受けたので、直ちに右構内に赴き、前記芝田巡査から簡単に事情を聴いたうえ事件の引継ぎを受けた。春山巡査長は、前記③の地点附近において、改めて原告と大和田から事情を聴取し、右トラブルが大和田の一方的なポスター破棄等による署名妨害行為に基因していることが判明し、その際大和田は、前述のように、腹をけられ、胸をつかまれたと述べたが、特に原告がその加害者であると言つたわけでもなく、かつ当時、同人自身の顔や手足などに負傷しているような形跡が認められなかつたにもかかわらず、右春山巡査長は軽率にも、原告を大和田に対する傷害の準現行犯人であると断定した。そして時を移さずその場で、原告に対し、何ら理由を告げず「署まで来い」と申し向け、おりから芝田巡査の連絡によりパトカーで到着した同署佐々木孝志巡査と前記田中巡査の協力を得て、原告の両腕をかかえて逮捕し、原告が足を踏んばつて拒否しているのに、一人は背部を押しながら、無理矢理同人を約一〇メートル先に停車しているパトカー(別紙図面の④の地点)方向に押進めた。

(5)  一方大和田もまた、前記芝田巡査、春山巡査長から任意同行を求められたのであるが、同人としては、前記暴行被害の点はさして念頭になく、むしろ、同人の心境としては、原告が果して許可を得て署名活動していたのか否かを確めるため、原告と一緒ならば同行に応ずる意向を示し、自ら進んで前記④の位置に停車中のパトカーまで行き、その後部座席に乗り込んだ。

(6)  春山巡査長らは、原告を右パトカーの後部ドア附近まで連行すると、その両腕をかかえ、肩を押して後部座席に乗せようとし、車内からも、運転席の渡辺正紀巡査とさきに乗車していた大和田が原告のベルトや腕をつかんで引張り込んだ。しかし、原告は乗せられまいとして、車体下部のステップ・ボードに足をかけて踏んばり、首を屋根(ルーフ・パネル)にかけ、「痛い痛い」と呼びながら抵抗した。このため、原告が持つていた署名画板、署名用紙および二〇〇〇円位のカンパの金などがその場に散乱し、原告の着用していた背広上着の右側ポケットが破れ、後背部中央がほぼ一直線状に裂けた。そして、原告の妻である佐藤君枝が、パトカー前部ドア附近で、同署員らに対し、「なぜこんなことをするのか」「行く必要はない」等と抗議したが、春山巡査長らは、これに取合わずに逆に「手を出すと公務執行妨害だぞ」「お前も来い」等と言つて、原告を引き戻そうとする同女の抵抗を排除し、同巡査長が原告の足を持ち上げ、腰の部分を田中巡査がかかえ、佐々木巡査が上半身を支えて原告をあおむけにし、その頭の方を先にしてパトカー後部座席に乗せ、直ちに右パトカーで約五〇〇メートル先の池袋警察署まで原告を連行した。

(7)  春山巡査長は、同日午後三時一〇分頃同署において、同署刑事第一課長警部及川正吉に原告を引渡した。同警部は、即刻原告を同署二階の取調室に収容し、同署捜査係巡査部長小田島恭治をして原告および大和田を取調べさせたところ、大和田が原告は直接暴力を振つた犯人ではない旨明言し、おりから原告と一緒に署名活動をしていた者の連絡で弁護士がかけつけたため、同日午後三時二〇分頃原告を釈放した。

以上の事実が認められる。

(三)  ところで、被告は、本件の逮捕当時、大和田が口唇から血を流しており、同人も右傷害は原告に小突かれたためであると述べていたので、傷害準現行犯で逮捕する旨告げたうえで原告を逮捕した旨主張し、前掲乙第二号証の一の記載および証人春山清治、同芝田好雄、同吉川英明の各証言中には右主張に照応する部分もある。しかしながら、これらは、右の被害者に擬せられた証人大和田大造自身がこのような傷害を受けた旨の証言をしていない点に鑑み、かつ、証人佐藤君枝、同坂本秀夫、同大野義夫の各証言および原告本人尋問の結果に照してみると、にわかに措信し難いものであり、他に前記認定を覆して被告主張の事実を認めるに足りる証拠はない。

二被告の責任について

(二) 春山巡査長ら前記池袋警察署員が被告の公権力の行使に当る公務員であることは当事者間に争いがない。

(二) ところで、被告は、春山巡査長らは原告を傷害の準現行犯人として逮捕したのであるから、右逮捕は適法かつ相当な職務行為であり、原告はその蒙つた損害を受忍しなければならない、と主張する。

しかしながら、いわゆる準現行犯人として何人も逮捕状なくして逮捕ができるのは、刑事訴訟法二一二条二項所定の場合、すなわち、第一に、被逮捕者について同項一号ないし四号のいずれかに該当する事由があること、第二に、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められること、以上の二つの要件を充足する場合に限られるのである。しかるところ、被告は、本件において、右第一の要件に関し、同項一号(犯人として追呼されているとき)、三号(身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき)の事実を挙げて、原告を大和田に対する傷害の準現行犯人と認めたことが適法であると主張するが、前認定事実に徴すれば、犯人とされる原告が右のいずれにも該当せず、また同項二号、四号所定の事実もないことが明らかであるから、本件の逮捕は、すでにこの点において法定の要件を欠く違法なものというほかはない。したがつて、この点に関する被告の前記主張は採用しない。

(三) そこで、進んで、春山巡査長らの右職務執行につき、同人らに故意過失があつたか否かを検討する。

(1)(故意について)

原告は、池袋警察署員は本件以前において都職労豊島支部に対する度重なる情報収集スパイ活動をしており、このことは本件において同署員の故意を裏付けるものである、と主張し、証人菊地輝夫、同安藤忠、同青木国太郎の各証言中には右主張に副う部分もある。しかしながら、右各証言は、その内容に徴し、いずれも裏付けに乏しい推測的な供述にすぎないことが明らかであるから、特別の価値は見い出し難く、他にこれを肯認させるだけの証拠はない(ちなみに、大和田の行為を外形的に見た場合は、同人が池袋警察署と意を通じ合つたいわゆる「手先」ではないかとの疑いも生じようが、同人の証人としての証言内容、供述態度その他からして、このような事情は窺い得ないところである)。したがつて原告の右主張は失当である。

(2)(過失について)

一般に、警察官が人を準現行犯人として逮捕する場合には、緊急を要する場合が多いのであるが、こと人権に関わる重大事であるから、咄嗟の場合でも軽挙を戒め、事態の具体的状況からみて、刑事訴訟法二一二条二項所定の要件が具備しているかどうかにつき慎重な検討を加え、いやしくも不法不当な逮捕をしないように配慮する職務上の注意義務を負うものといわなければならない。これを本件についてみるに、前記一(二)の(2)、(3)の認定事実からすれば、芝田巡査が原告に対し最寄りの派出所に任意の同行を求めたこと自体は、当時の混乱した状況からして警察官として一応適切な措置であつたということができる(警察官職務執行法二条三項、二項参照)。しかし、この場合であつても、警察官が進んで強制処分、すなわち身柄を拘束したり、その意に反して警察署、派出所に連行するためには、刑事訴訟法の規定に依拠しない限りこれをなし得ないのである(同法二条一項)。しかるところ、本件においては、原告を大和田傷害の準現行犯人と認めるに足りる要件が欠けていたことは前示のとおりであり、しかも、前認定の事実よりすれば、右要件の欠缺は、警察官として要求される前記注意義務を尽せば容易に知り得たものということができるから、芝田巡査から事件を引継いだ春山巡査長らが漫然右要件を充足したものと考えたことは、前記注意義務を怠つた過失があるものといわなければならない。

(四) そうとすれば、被告は原告に対し、春山巡査長らがその職務上の過失により違法に原告を逮捕連行し、それによつて原告に蒙らせた後記損害につき、国家賠償法一条一項に基づく賠償責任があるというべきである。

三原告の蒙つた損害

(一)  〈証拠〉を総合すると、原告は、連行される際に受けた暴行により、頸、胸背部および足に打撲擦過傷を負い、同日訴外鬼子母神病院で治療を受け、爾後数日間は右部分の痛みが癒えなかつたばかりでなく、池袋警察署の取調室に連行された後、取調にあつた小田島巡査部長らに対し、青柳盛雄法律事務所の弁護士か国民救援会の人を呼んでくれるように求めたが、同署員らからこれにとりあつてもらえず、氏名、住所を黙秘した際にも「とんでもない野郎だ」「カエルのしよんべんみたいだ」等とののしられたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(二)  右認定事実および前認定のような本件準現行犯逮捕の違法性、連行の態様、拘束の時間その他本件に顕われた諸般の事情を総合すれば、原告の蒙つた肉体的、精神的苦痛に対する慰藉料は、金一〇万円をもつて相当と思料する。

四むすび

以上のとおり判断されるから、原告の本訴請求は、損害金のうち金一〇万円およびこれに対する損害発生の後である昭和四四年一〇月二二日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を各適用する。なお、原告は仮執行の宣言を求めているが、その必要はないものと考えられるので、その宣言はしない。よつて主文のとおり判決する。

(伊東秀郎 小林啓二 篠原勝美)

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